名古屋地方裁判所 平成8年(ワ)4511号・平9年(ワ)700号 判決
第一事件原告・第二事件原告 宇佐見五郎
第二事件原告 宇佐見英子
右両名訴訟代理人弁護士 伊神喜弘
第一事件被告 宇佐見國男
第一事件被告 宇佐見三郎
第一事件被告・第二事件被告 ウサミ印刷株式会社
右代表者代表取締役 宇佐見三郎
右三名訴訟代理人弁護士 片山欽司
同 井上尚司
主文
一 第一事件被告ウサミ印刷株式会社は、第一事件原告に対し、五三七万九九九九円及びこれに対する平成九年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 第一事件原告のその余の請求を棄却する。
三 第二事件原告らの請求を棄却する。
四 訴訟費用は、第一事件につき生じた部分は第一事件原告の負担とし、第二事件について生じた部分は第二事件原告らの負担とする。
五 この判決は第一項に限り仮に執行することができる。
事実
(以下においては、第一及び第二事件原告宇佐見五郎を「原告五郎」と、第二事件原告宇佐見英子を「原告英子」と、第一事件被告宇佐見國男を「被告國男」と、第一事件被告宇佐見三郎を「被告三郎」と、第一及び第二事件被告ウサミ印刷株式会社を「被告会社」と、それぞれ略称する。)
第一当事者の求めた裁判
(第一事件について)
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告五郎に対し、各自、四五七七万九九九九円及び内金一〇〇〇万円に対する平成八年一二月八日から、内金六三二万九九九九円に対する平成九年二月一日から、内金二九四五万円に対する平成一〇年九月一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告五郎の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告五郎の負担とする。
(第二事件について)
一 請求の趣旨
1 被告会社の平成九年一月一二日の臨時株主総会における原告五郎を取締役より解任する旨の決議を取り消す。
2 訴訟費用は被告会社の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二当事者の主張
(第一事件について)
一 請求の原因
1 当事者等
被告会社は、印刷業、紙の加工、事務用品及び文具類の製造販売等を営業目的とする株式会社である。
被告國男及び被告三郎は被告会社の代表取締役であるが、被告國男は原告五郎の長兄、被告三郎は原告五郎の三番目の兄に当たる。
原告五郎は、昭和二九年九月、被告会社に入社し、昭和五五年六月五日、被告会社の取締役に就任し、平成七年一〇月に重任されたが、その任期は平成九年一〇月までであった。
2 委任契約
(一) 被告会社は、原告五郎との間で、平成六年三月、取締役就任中の報酬として被告会社が原告五郎に対し、毎月末日前日に、月額一五五万円を支払う旨の合意をした(以下「本件委任契約」という。)。
(二) 被告國男及び被告三郎は、平成八年七月、取締役会決議及び株主総会決議を経ることなく、原告五郎に対し、同年九月から非常勤勤務として自宅待機を命じた。
そして、被告会社は、同年九月分、一〇月分の原告五郎の報酬月額につき一二五万円を削減し、各月三〇万円のみを支給した。
(三) 平成八年一〇月二七日開催の被告会社取締役会において、同年九月分に遡って原告五郎の報酬月額につき一二五万円を削減することが決議された(以下「本件減額決議」という。)。
そして、被告会社は、原告五郎の報酬として、同年一一月分、一二月分も、各月三〇万円のみを支給した。
(四) 平成八年一二月二六日開催の被告会社臨時取締役会において、原告五郎の取締役解任を臨時株主総会の決議議題とすることが決議され、平成九年一月一二日開催の被告会社臨時株主総会において、原告五郎の取締役解任決議が決議された(以下「本件解任決議」という。)。
そして、被告会社は、同日までの原告五郎の報酬として、二二万〇〇〇一円を支給したのみで、平成九年二月以降は、原告五郎の報酬を支払わない。
(五) しかしながら、本件減額決議は、原告五郎の同意なく報酬を著しく減額するものであって、実質的には原告五郎を事実上解任したと同視できるから、商法二五七条一項但書の趣旨を潜脱しようとするものであり、違法である。
また、本件解任決議は、第二事件請求の原因2に主張するとおり、瑕疵があり取り消されるべきものであって、違法な決議である。
したがって、被告会社は、原告に対し、本件委任契約に基づき、
(1) 平成八年九月分から同年一二月分までの未払報酬として各月一二五万円の合計五〇〇万円
(2) 平成九年一月分の未払報酬として一三二万九九九九円
(3) 平成九年二月分から原告五郎の取締役任期が満了する同年一〇月分までの未払報酬として各月一五五万円の合計一三九五万円
の合計二〇二七万九九九九円を支払うべき義務がある(なお、(1) 、(2) の各未払報酬の支払期日は、遅くとも平成九年一月三一日に、(3) の未払報酬の支払期日は、遅くとも平成一〇年八月三一日に、到来している。)。
3 生活扶助契約等
(一) 生活扶助契約
原告五郎と被告会社は、平成八年七月二五日、同年九月一日から平成一〇年八月三一日までの間、被告会社が原告五郎に対し、取締役報酬に見合う金員として月額一五五万円を支払う旨の合意をした(以下「本件扶助契約」という。)。
すなわち、平成八年七月二五日、被告会社応接室において、被告國男が原告五郎に対し、「専務は人の好き嫌いが激しいと皆が言っている。二年間給料を出すから休職してくれ。」と申し出たので、原告五郎が「いいですよ。ただし、私も心の準備が必要だから八月一〇日までにいつから休職するか聞かせてほしい。」と承諾し、もって、本件扶助契約が口頭で成立した。
なお、約定書(甲二一)は本件扶助契約が成立したことの確認の意味しかもたないのであるから、原告五郎が約定書(甲二一)に署名押印しなかったことは、本件扶助契約不成立の理由にならない。
(二) 前記(一)のとおり、被告会社は、原告五郎に対し、本件扶助契約に基づき、平成八年九月一日から平成一〇年八月三一日までの報酬相当金月額一五五万円の合計三七二〇万円の支払義務があるところ、前記2(二)ないし(四)のとおり合計一四二万〇〇〇一円を支払ったのみであるから、残金三五七七万九九九九円を支払う義務がある(なお、平成九年一月分までの報酬相当金の支払期日は遅くとも平成九年一月三一日に、同年二月分以降の報酬相当金の支払期日は、遅くとも平成一〇年八月三一日に、到来している。)。
(三) 生活扶助に対する期待権
仮に、本件扶助契約が成立していないとしても、原告五郎は、平成八年七月二五日の応接室における被告國男の前記(一)のような発言により、平成八年九月一日から二年間は給料を受け取ることができるという正当な期待を抱いたが、右期待は法的保護に値する期待である(以下「本件期待権」という。)。
なぜならば、被告会社においては、被告國男は絶対的な存在であり、原告五郎が被告國男の発言を聞きこれに同意した経過からみると、原告五郎が、右期待を抱いたのは当然であり、期待することに合理性があるといえるし、右期待は生活を支える収入に関するものであり、これを保護する必要性も認められるからである。
4 不法行為
(一) 被告國男及び被告三郎は、平成八年七月、取締役会決議及び株主総会決議を経ることなく、原告五郎に対し、同年九月から非常勤勤務として自宅待機を命じ、同年九月分、一〇月分の原告五郎の報酬月額のうち一二五万円を削減した上、平成八年一〇月二七日開催の被告会社取締役会において、本件減額決議を提案し、これを決議させた。
さらに、被告國男及び被告三郎は、平成八年一二月二六日開催の被告会社臨時取締役会において、本件解任決議を臨時株主総会の決議議題とすることを提案し、右提案を決議させた上、平成九年一月一二日開催の臨時株主総会において、本件解任決議を提案し、これを決議させた。
(二) 本件減額決議及び本件解任決議は、前記2(五)のとおり共に法的根拠のない違法な決議であるが、これらにより、被告会社は、何らの手続もなく違法に、平成八年九月分以降、原告五郎の報酬を減額し、平成九年二月以降は、報酬を支払わない。
よって、被告國男及び被告三郎は、前記(一)の行為により、原告五郎が被告会社に対して有する本件委任契約又は本件扶助契約に基づく債権を侵害したものであり、仮に本件扶助契約が成立していないとしても本件期待権を侵害したものであるから、民法七〇九条により、原告五郎に生じた損害を賠償する責任を負い、被告会社も、同法四四条又は同法七一五条により、損害賠償責任を負う。
(三) 損害
原告五郎は、以下のとおり合計四五七七万九九九九円の損害を被った。
(1) 債権侵害 三五七七万九九九九円
原告五郎は、被告國男及び被告三郎の右不法行為により、<1>平成八年九月分から平成九年一〇月分までの本件委任契約に基づく報酬又は本件扶助契約(予備的に本件期待権)に基づく報酬相当金合計二〇二七万九九九九円、<2>平成九年一一月から平成一〇年八月分までの本件扶助契約(予備的に本件期待権)に基づく報酬相当金合計一五五〇万円、以上の合計三五七七万九九九九円の債権を侵害された。
(2) 慰謝料及び弁護士費用 一〇〇〇万円
原告五郎は、被告國男及び被告三郎の右不法行為により、以下のとおり慰謝料及び弁護士費用として合計一〇七四万〇一九八円の損害を被ったが、そのうち一〇〇〇万円を請求する。
ア 慰謝料 五〇〇万円
被告國男及び被告三郎の右不法行為により、原告五郎は精神的苦痛を受け、その相当額は五〇〇万円を下らない。
イ 弁護士費用 五七四万〇一九八円
原告五郎は、本件訴訟を提起するに当たり弁護士を委任せざるを得ず、着手金一九一万三三九九円及び報酬金三八二万六七九九円の計五七四万〇一九八円の費用を要する。
5 よって、原告五郎は、選択的に、
(一) 不法行為に基づく損害賠償請求権として、被告会社、被告國男及び被告三郎に対し、各自、四五七七万九九九九円及び内金一〇〇〇万円に対する平成八年一二月八日から、内金六三二万九九九九円に対する平成九年二月一日から、内金二九四五万円に対する平成一〇年九月一日から(遅延損害金の各起算日はいずれも不法行為の後である。)、各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金
(二) 本件扶助契約に基づく報酬相当金支払請求権として、被告会社に対し、三五七七万九九九九円及び内金六三二万九九九九円に対する平成九年二月一日から、内金二九四五万円に対する平成一〇年九月一日から(遅延損害金の各起算日はいずれも履行期の後である。)、各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金
(三) 本件委任契約に基づく報酬支払請求権として、被告会社に対し、二〇二七万九九九九円及び内金六三二万九九九九円に対する平成九年二月一日から、内金一三九五万円に対する平成一〇年九月一日から(遅延損害金の各起算日はいずれも履行期の後である。)、各支払済みまで、民法所定の年五分の割合による遅延損害金
の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2について
(一) 同(一)ないし(四)の事実は認める。
(二) 同(五)は争う。
原告五郎は、平成八年七月二五日開催の被告会社臨時取締役会において、同年八月末日をもって専務取締役の任を解き、非常勤取締役として自宅待機を命ずることとされ、原告五郎の職務内容は著しく変更されたところ、取締役の報酬は取締役の業務執行の対価であり、報酬と業務執行内容の甚だしい不均衡が生じた場合にも、従来の報酬が維持されることは信義衡平の原則に反するから、事情変更の原則により報酬の変更が認められるのは当然である。
なお、被告会社においては、従前から取締役の報酬の配分については会長である被告國男の一存で決定するという慣行があったため、原告五郎の報酬減額も右慣行に従って被告國男が決定したが、本件減額決議により、右被告國男の報酬減額は追認されている。よって、原告五郎の報酬減額につき、違法とされるべき点はない。
また、本件解任決議に取り消されるべき瑕疵のないことは、第二事件請求の原因に対する認否2のとおりであって、本件解任決議が違法とされるべき点はない。
3 同3について
(一) 同(一)の事実は否認する。
平成八年七月二五日、原告五郎の自宅待機を命じた際に、被告國男は、将来原告五郎が被告会社の営業を阻害するような行動をとらない限り、平成一〇年八月三一日までは従来どおりの報酬を支払おうと考え、「後日書面を渡すからその内容に納得すれば報酬を支払う。」と言っただけである。
また、被告会社は、平成八年八月下旬ころ約定書(甲二一)を作成し原告五郎に対し署名押印を求めたが、原告五郎は申出を拒絶したので、本件扶助契約は成立していない。
(二) 同(二)は争う。
(三) 同(三)の事実は否認する。
4 同4について
(一) 同(一)の事実は認める。
(二) 同(二)の主張は争う。
被告らは、本件減額決議及び本件解任決議を行ったが、両決議は適法な手続に基づき行われたものであり、被告らの行為が不法行為を構成する余地はない。
仮に、両決議の適法性が問題とされるべきであるとしても、両決議には以下のとおりの正当事由があり、被告らの行為は不法行為を構成しない。
(1) 原告五郎は、会社の和を乱す行動が著しくみられ、このまま取締役としたのでは従業員の一致協力が得られず、会社経営を危うくすることが危惧された。
(2) 原告五郎は、得意先や下請業者に対して、独善的で公平を欠く行為が多く、相手を見下げた態度で接することがしばしばあり、被告國男らに苦情を申し入れる者もいた。
(3) 原告五郎は、暴力団風の者との交流があり、この者が被告会社に外車に乗って出入りすることがあったため、顧客の手前上、会社に出入りさせないように注意することがあった。
(4) 原告五郎は、被告会社の女性従業員に対して、いわゆるセクハラ行為をした。
(5) 原告五郎は、被告会社の得意先であった勇成社こと梅村秀雄(以下「勇成社」という。)から注文があった運転試験場の申請書類等の印刷を、勇成社の元従業員と共謀して同人の営むアイビー企画から注文させた。
(三) 同(三)は争う。
三 抗弁
1 本件扶助契約の解除
原告五郎が約定書(甲二一)の調印を拒否し、弁護士に相談するに至ったことにより、被告國男は、原告五郎に恩情をかける必要がないと考え、平成八年八月末ころ、原告五郎に対し、「弁護士を頼んだからには温情はかけられない。被告会社から借りている自動車もすぐ返しておけ。」と申し述べた。
さらに、被告会社においては、平成八年一〇月二七日、取締役会において、原告五郎の報酬を同年九月分から月額三〇万円とする本件減額決議がされ、即時原告五郎に右決議内容が通知された。
右事実によれば、被告会社が、原告五郎に対し、同年八月末日、遅くとも同年一〇月二七日において本件扶助契約を解除する旨の意思表示をしたものと評価できる。
2 本件扶助契約(贈与契約)の取消し
本件扶助契約は贈与契約であるから、被告会社は、原告五郎に対し、平成一一年一一月一五日の口頭弁論期日において、本件扶助契約を取り消す旨の意思表示をした。
四 抗弁に対する認否及び反論
1 抗弁1の事実は、否認する。
2 同2の事実のうち、本件扶助契約が贈与契約であるという点は否認する。
本件扶助契約は、被告会社の申出により、原告五郎が被告会社の経営から身を退くことの対価として原告五郎及びその家族の生活保障の意図に出たものであるから、民法五四九条にいう無償の要件を欠いている。
また、仮に、本件扶助契約が書面によらない贈与契約であったとしても、被告会社の要請により原告五郎が平成八年九月一日から非常勤取締役として出勤しなくなったことを被告会社は受け入れており、既に履行に着手しているから取消しはできない。
(第二事件について)
一 請求の原因
1 原告五郎は、被告会社の株式五〇六七株を有する株主であり、原告英子は、被告会社の株式四五〇株を有する株主であるところ、被告会社は、平成九年一月一二日に臨時株主総会を開催し、原告五郎を被告会社取締役から解任する旨の本件解任決議をした。
2 しかしながら、本件解任決議には以下の瑕疵があるから、本件解任決議は取り消されるべきものである。
(一) 説明義務違反
(1) 本件解任決議を付議するに当たり、議長である被告三郎は、提案理由として、「平成八年七月二五日開催の取締役会において、原告五郎は専務取締役として不適格であるとして、専務取締役を解き非常勤取締役とする旨の決議がされた。しかし、その後、原告五郎は反社会的な言動が多く、平成八年一一月二八日に、被告会社らを被告として訴訟を提起してきた。よって、取締役の地位にとどめておくことは極めて不適当であるので、取締役から解任されたい。」と述べた。
そこで、原告らが「反社会的言動」の具体的内容について説明を求めたが、商法では取締役解任決議については解任理由は関係なく、三分の二以上の賛成があればよいとして、被告会社は、反社会的言動の具体的内容について何ら説明することなく、本件解任決議を行った。
(2) 右のような場合には、説明がされなかった事項について質問権の行使があったものとみなし、説明義務が生じると解すべきである。
したがって、本件総会においては原告五郎の解任事由について説明義務が尽くされていないから、本件解任決議には決議の方法が法令に違反するという瑕疵がある。
(二) 特別利害関係人による議決権行使による不当な決議
(1) 被告会社は、宇佐見家の同族会社であり、被告会社と被告國男、同三郎及び原告五郎ら取締役との間の任用契約の前提には、同人らの父である創業者が興した被告会社を協力して発展させるとともに、相互に応分の利益を分配しあって、一族の生計をたて、相互扶助を図るという黙示の合意が存在する。
したがって、被告國男及び被告三郎らは、原告五郎を被告会社の取締役から解任して、被告会社の運営とそれに伴う利益分配から排除することにつき、特別利害関係を有するものである。
(2) 原告五郎にとって、取締役を解任され、被告会社経営から閉め出されることは原告五郎の収入の道を一切閉ざされることになり、また、被告会社は株式の譲渡制限が定められている閉鎖会社であることからすれば、実質的には株主としての地位を奪うことになり、著しく不当なものである。
3 よって、原告らは、被告に対し、本件解任決議の取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否
1 請求の原因1の事実は認める。
2 同2について
(一) 同(一)(1) の事実は認めるが、同(2) の主張は争う。
商法二三七条の三所定の取締役の説明義務は、株主が議題について合理的な判断をするために必要な事項の開示があれば十分と解されるから、本件においては、被告國男がした提案事由の説明で十分である。
(二) 同(二)の事実のうち、被告会社が、株式の譲渡制限が定められている閉鎖会社であることは認め、原告ら主張の合意の存在は否認し、主張は争う。
そもそも取締役解任決議においては、当該取締役こそが特別利害関係人であって、他の者は特別利害関係人ではない。
三 抗弁-裁量棄却
1 本件解任決議は、出席株式総数五二九二〇株中、四六七七三株という圧倒的多数の賛成で可決されている。出席株主の議決権の三分の二は三五二八〇株であるが、被告國男の持ち株は七一〇四株、被告三郎の持ち株は八一二七株、被告三郎が議決権の代理行使をしたのは二二四〇七株であり、これだけで三分の二を超える。
2 よって、仮に本件解任決議に際する説明が不十分であっても、本件解任決議の結果に影響を及ぼさないことは明らかであるから、本件請求は裁判所の裁量により棄却されるべきものである。
四 抗弁に対する認否
争う。
理由
第一第一事件について
一 請求の原因1は当事者間に争いがない。
二 請求の原因2の事実について
1 同(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。
2 平成九年一月一二日までの報酬の支払について
株式会社において、定款又は株主総会の決議(株主総会において取締役報酬の総額を定め、取締役会において各取締役に対する配分を決議した場合を含む。)によって取締役の報酬額が具体的に定められた場合には、その報酬額は、会社と取締役間の契約内容となり、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するから、その後、取締役会が当該取締役の報酬につき減額する旨の決議をしたとしても、当該取締役は、減額に同意しない限り、右報酬の請求権を失うものではないと解するのが相当である。この理は、取締役の職務内容に著しい変更があっても異ならない(最高裁第二小法廷平成四年一二月一八日判決参照)。
そうすると、本件において、原告五郎は、本件減額決議によっても、減額分の報酬請求権を失わないというべきであるから、被告会社に対し、未払報酬として、平成九年一月一二日までの減額分合計五三七万九九九九円(内訳は、<1>平成八年九月分から同年一二月分までの減額分として各月一二五万円の合計五〇〇万円、<2>平成九年一月一日から同月一二日までの減額分として、右期間の日割計算による報酬額六〇万円から支払済みの二二万〇〇〇一円を控除した残額三七万九九九九円)の支払を求めることができるというべきである。
3 平成九年一月一三日以降の報酬の支払について
原告五郎の本件委任契約に基づく報酬請求権は、原告五郎が被告会社取締役の地位を有することが前提であるところ、原告五郎は、本件解任決議により取締役の地位を失ったものであるから、被告会社に対し、右決議以後の報酬の支払を求めることはできない(もっとも、解任決議に重大な瑕疵がある場合は別論であるが、後記第二の二に説示するとおり、本件においてそのような瑕疵は認められない。)。
三 請求の原因3の事実について
1 本件扶助契約について、証拠(甲二一、原告五郎、被告國男)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(一) 平成八年七月二五日、被告会社応接室において、原告五郎、被告國男、被告三郎、被告会社常務取締役である島節夫及び被告会社取締役営業部長である片桐純一が、原告五郎の被告会社における今後の処遇について話し合った。
その際、被告会社代表取締役である被告國男は、原告五郎に対し、「専務取締役から非常勤取締役になってくれ。二年間給料を払う。」旨申し出た。これに対し、原告五郎が、被告会社に出勤するのかどうかを尋ねたところ、被告國男は、一日も出社しなくてもよい旨答えた。
そこで、原告五郎は、「分かった。ただし、心の準備も必要なので、八月一〇日までに何時から出勤しなくてよいのか聞かせてほしい。」旨回答し、応接室での話は終わった。
(二) その後の平成八年八月二一日、原告五郎は、被告國男から、既に被告会社の記名押印がされた約定書(甲二一)を渡された。
右約定書には、第一条として、被告会社が原告五郎に対し、平成八年九月一日から平成一〇年八月三一日まで、非常勤取締役として自宅待機勤務を命じるが、非常勤取締役の期間は月給を支払う旨、第二条として、原告五郎又は原告五郎の子である宇佐見忠義(以下「忠義」という。)が、被告会社に対し重大な商道徳違反及び営業妨害行為を行った場合(原告五郎又は忠義が、印刷業又は印刷に関連した会社又は商店を開業したとき、原告五郎又は忠義が、被告会社の従業員を引き抜くときなど)、原告五郎に対する第一条の待遇を直ちに停止し、免職退社処分を行う場合がある旨等が記載されていた。
原告五郎は、被告國男から事前に何ら説明がなかったことや、右約定書に忠義に関する事項も含まれていたことに納得がいかなかったため、右約定書に署名押印しなかった。
2 以上の認定事実によれば、平成八年七月二五日の被告國男の申出は、原告五郎に対して「非常勤取締役」として従前と同額の「給料」を支払うという内容のものである上、右申出を踏まえて作成された約定書第一条も、「非常勤取締役」の期間は「月給」を支払うという記載となっており、「給料」や「月給」以外の名目で金員を支払う旨は表明されていないのであって、これらの事実からすると、平成八年七月二五日の原告五郎と被告國男との被告会社応接室における合意は、あくまで、原告五郎が被告会社の取締役の地位を有することを前提として、従前どおり被告会社が報酬を支払うことを確認したにすぎないというべきであり、被告会社が、原告五郎の取締役の地位の存否とは関係なく、一定期間金員を支払う旨の合意がされたと解することはできない。
この点、原告五郎は、被告國男が「二年間」給料を支払う旨申し出たことを根拠として、本件扶助契約の成立を認めるべきであると主張する。確かに、被告國男が「二年間」給料を支払うと申し出たことは前記認定のとおりであるが(なお、被告國男は、二年間と述べたことはないと供述するが、後日、原告五郎に渡された約定書(甲二一)にも「平成一〇年八月三一日まで」との記載があること、原告五郎が二年で年金受給資格を得ることができる(原告五郎、被告國男)ため、二年間と申し出たことには合理的根拠が認められることを考慮すると、被告國男の右供述は採用できない。)、同時に、被告國男が「非常勤取締役」という言葉を使用していることを併せ考慮すれば、被告國男は、原告五郎の任期が満了する平成九年一〇月の定時株主総会で原告五郎が再任され、取締役としての地位が継続していることを前提として、二年間と申し出たにすぎないというべきであるから、被告國男が二年間と申し出たからといって、本件扶助契約の合意がされたということはできず、その他に、本件扶助契約の成立を認めるに足りる証拠はない。
3 そうすると、その余の点につき判断するまでもなく、本件扶助契約に基づく請求は理由がない。
4 また、以上のとおり、平成八年七月二五日の前記合意は、原告五郎につき、出勤は不要であるが取締役としての報酬は支払うという確認にすぎないというべきであるから、原告五郎が、その際の被告國男の言動によって、取締役としての地位に関係なく二年間は報酬相当額を被告会社から受給されるとの期待を抱いたとはいえないし、仮に、原告五郎がそのような期待を抱いたとしても、右期待は法的保護に値する期待とはいえない。
四 請求の原因4について
まず、原告五郎は、本件委任契約に基づく債権侵害の不法行為を主張するところ、本件委任契約に基づき、原告五郎が、被告会社に対し、平成九年一月一二日までの減額分の報酬請求権を有していることは前記二1に説示したとおりであるから、この点について、原告五郎の報酬請求債権が侵害されたということはできず、本件減額決議についての被告國男及び被告三郎の行為をもって不法行為ということはできない。
次に、原告五郎は、本件解任決議には重大な瑕疵があるとして、被告國男及び被告三郎がこのような決議をさせたことをもって不法行為と主張するが、本件解任決議において、重大な瑕疵が認められないことは、後記第二の二に説示するとおりである。そして、商法二五七条一項によれば、取締役は、何時でも事由のいかんを問わず、株主総会の決議をもってこれを解任することができ、ただし、取締役の任期の定めがある場合に正当な事由なく解任したとき、当該取締役は、解任によって生じた損害を会社に対し請求することができるとされるにすぎないから、被告國男及び被告三郎が本件解任決議をさせたこと自体が不法行為を構成する余地はないというべきである(なお、原告五郎は、商法二五七条一項但書に基づく損害賠償請求をしない。)。
さらに、原告五郎は、本件扶助契約に基づく債権の侵害、予備的に本件期待権に基づく債権の侵害を主張するが、本件扶助契約及び本件期待権が認められないことは、前記三に説示したとおりであるから、右主張も理由がないことが明らかである。
そうすると、原告五郎の不法行為に基づく請求は、理由がない。
五 以上によれば、原告五郎の請求は、被告会社に対し、本件委任契約に基づき、平成九年一月一二日までの未払報酬の合計五三七万九九九九円及びこれに対する履行期以後である同年二月一日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。
第二第二事件について
一 請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。
二 請求の原因2について
1 同(一)について
同(1) の事実は当事者間に争いがない。
ところで、株主総会の権限は、決議により会社の意思を決定することであり、取締役等の説明義務は、株主総会における決議事項につき、株主が賛否を決するために合理的判断をするために必要な資料を提供するところにあると解される。とすれば、取締役等の説明義務は、平均的株主が、株主総会の目的事項を理解し決議事項について賛否を決して議決権を行使するのに客観的に必要な範囲において認められるものと解すべきである。
そこで、本件についてみるに、議長である被告三郎は、原告五郎の取締役解任理由として、反社会的言動が多いこと及び原告五郎が被告会社に対し訴訟を提起するに至ったこと等を述べたことは争いのないところ、取締役は株主総会の決議により何時でも解任することができ、取締役解任自体について正当な事由は必要とされていないことをも併せ考慮すると、右説明によって、平均的株主が原告五郎の取締役解任という決議事項について賛否を決し得る情報が提供されたと認めるのが相当であるから、被告会社の取締役らに原告五郎の解任事由につき説明義務違反があったということはできない。
2 同(二)について
株主が株主総会において自己の議決権を行使する場合には、会社の利益を考慮すべきことはもちろんであるが、これと同時に自己の利益を図ることももとより許されるところであり、その結果、各株主の利害が対立して見解の相違が生ずるときは、結局、多数決によって、その結論が決せられることとなるのであり、このことは、多数の株式の存在を予定している株式会社制度上当然のことであるということができる。そして、特定人を会社の取締役若しくは監査役に選任し又はこれを解任するということは、会社の支配ないし経営について最も重要な事項に属するから、このような事項については、できる限り株主の議決権の行使が許されるべきである。
そうだとすれば、仮に、原告らが主張するような相互扶助の黙示の合意が存在するとしても、このような事実は、原告五郎の取締役解任決議につき、株主である被告國男及び被告三郎の議決権の行使を制限すべき特別利害関係には当たらないというべきである。
また、本件では、解任の対象である原告五郎にも議決権の行使が許されているものであって、本件解任決議が著しく不当とされるべき事情もない。
三 以上のとおりであるから、原告らの請求は理由がない。
第三結語
以上の次第であるから、原告五郎の第一事件の請求は、本件委任契約に基づき未払報酬五三七万九九九九円及びこれに対する平成九年二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、原告らの第二事件の請求は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 筏津順子 裁判官 鈴木正弘 裁判官 松井洋)